一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

コラム

2013/05/15 No.10_4東アジアのFTAで関税率はどれくらい下がるか〜TPPの関税削減メリットはRCEP、日中韓FTAを下回るか〜

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

目次

  1. なぜ東アジアのFTAの関税削減メリットを計算したか
  2. ACFTAの平均関税率は1~2%台
  3. AFTAの平均関税率は0.2%以下
  4. TPPの関税削減メリットは日中韓FTA、RCEPを下回るか
  5. 一様に高い輸送用機械・部品のACFTA税率

(4/5ページ)

4.TPPの関税削減メリットは日中韓FTA、RCEPを下回るか

東アジアの地域経済統合として、TPPや日中韓FTA、及びRCEPの動きが活発化している。この中で、RCEPはASEANの主導権を取り戻そうとする試みの1つである。特に、ASEANの中でもシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムは、RCEPについても前向きである。

ACFTAのようなASEAN+1がより広域な経済圏であるRCEPに包含されれば、それぞれ異なる原産地規則が統一され、かつ累積原産対象の範囲の拡大により、一層の輸出拡大につながるからだ。

TPPに関しては、カナダとメキシコは既に2012年内に交渉へ参加しているが、これに日本が加われば12カ国目となる。日本のTPP交渉参加は、日中韓FTAやRCEPの交渉に大きな影響を与える。例えば、中国は日中韓FTAよりも、中韓FTAや日中FTAという2国間のFTAを優先しているが、今後はその姿勢を変化させるかもしれない。さらに、日中韓FTAの自由化の度合いは、日本のTPP交渉参加により高まるものと思われる。

こうした中で、TPPや日中韓FTA、RCEPの関税削減効果がどのくらいになるのかは、興味があるところである。米国の場合は、TPPにおいては、モノの関税を削減することよりも、サービス市場の開放に関心が移っているようである。しかし、それでも、日本に対して乗用車の2.5%やトラックの25%の関税を長期で維持することを主張している。

本稿におけるACFTAやAFTAにおける関税削減率は、加重平均したMFN税率からACFTA税率やAFTA税率を差し引くことにより求めている(関税削減率=MFN税率-ACFTA税率(AFTA税率))。

これは、FTAの発効に伴い、ACFTAやAFTA加盟国から関税を削減するスケジュール表(TRS表:譲許表)が発表されているためである。TRS表に基づき、2012年におけるACFTA税率やAFTA税率を加重平均で算出することができる。

それでは、TPPや日中韓FTA、RCEPでも同じことが可能かというと、これらのFTAはまだ発効していないので、TPPなどのTRS表は当然のことながら発表されていない。つまり、現時点では、TPP税率、日中韓FTA税率、RCEP税率は計算できないのだ。その代わりに、これらのFTAの加盟国における加重平均されたMFN税率を求めることができる。

表4は、WTOにより作成されたTPP、日中韓FTA、RCEPの各加盟国のMFN税率をリストアップしたものである。さらに、表4では、WTO作成の各国のMFN税率を基に、各国の域内輸入額で加重平均してTPP、日中韓FTA、RCEPのそれぞれのMFN税率を計算している。

WTO作成の各国のMFN税率は、それぞれの国の世界からの総輸入額に占める各品目のシェアをウエイトにして加重平均で求めている。これに対して、本稿のACFTAやAFTAでは、それぞれの国の域内からの総輸入額に占める各品目のシェアをウエイトに用いて加重平均を行っており、双方のウエイトの取り方が違っている。すなわち、「表4」と「表1~表3」のMFN税率の定義は異なる。

表4 TPP、日中韓FTA、RCEPにおけるMFN税率と関税削減率

こうしたことから、「TPPや日中韓FTA、RCEP」と前述の「ACFTA・AFTA」の関税削減率を純粋に比較することはできない。あくまでも、TPPや日中韓FTA、RCEPの関税削減率は、1つの参考として取り上げることができる。特に、TPP税率や日中韓FTA税率、RCEP税率は計算できないので、表4では、各FTAが発効してから10年後に平均関税率を0.1%まで削減すると仮定して、関税削減率を得ている。

この結果、表4の項目「関税削減率(A-B)」のように、TPPの関税削減率は2.6%になり、日中韓FTAとRCEPは共に4.3%になる。ちなみに、ASEAN10は3.2%である。

したがって、これらのFTAを比較すると、日中韓FTAやRCEPの関税削減効果の方がTPPを上回る。これは、TPPのMFN税率が、日中韓FTAやRCEPを下回っているからである。TPPのMFN税率が低いのは、日本を含めた12カ国の中で、シンガポールのMFN税率が0%であるし、ブルネイ、ニュージーランド、米国、ペルー、日本が2%台であるからである。

日中韓FTAのMFN税率は4.4%であるが、これは日本の2%台に対して、韓国が7.4%と高率であるためである。RCEPにおいても、インドの7.2%とオーストラリアの5.5%が全体のMFN税率を引き上げている。

TPPやRCEPが発効し、TPP税率やRCEP税率が計算できれば、より正確な関税削減率が可能である。しかし、現時点では無理であるので、表4のように、大雑把に見積もると、「TPP」と「日中韓FTA・RCEP」との関税削減率の格差は1.7%(4.3%-2.6%)になる。すなわち、100万円の輸入で、TPPの関税削減メリットは、日中韓FTAとRCEPよりも全品目平均で2万円弱ほど少ないと見込まれる。

表4は、TPP税率やRCEP税率を求めることができないため、10年後の平均関税率を0.1%に仮定した。もしも、TPPの発効当初の平均関税率を0.3%、日中韓FTA、RCEPを1.0%と仮定すると、TPP税率は2.4%、日中韓FTA税率とRCEP税率は3.4%になる。

この結果、「TPP」と「日中韓FTA・RCEP」との関税削減率の差は1%まで縮小する。しかし、発効当初も10年後も、TPPの関税削減効果が日中韓FTAやRCEP を下回るという基本的な方向性には変わりはない。

<前ページ    次ページ>

コラム一覧に戻る