一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2014/06/19 No.19ミャンマー農村部の生活実態とBOPビジネスの可能性(1)

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

2013年、2012年とミャンマーの農村を訪ねる機会があった。2013年がミャンマーの中央乾燥地帯(ドライゾーン)の中心、マグウェ管区にあるミンクン村、2012年はシャン高原のタウンジー県にあるヘーホー村である。滞在はそれぞれ3日間と短かったが、農民のグループディスカッションや農家訪問を通じて、生活実態の一端を知り得た。デルタ地帯の農民の生活実態に関する情報を加味して、ミャンマーの農村部の生活実態とBOPビジネスの可能性について考察してみた。

1. ミャンマー農村部の生活実態(今回)
  ペインピンジー集落
  ミンクン村
  所得階層の基準
  農民の生活実態事例
  農民の収入と支出
  借金
  農村の生活は改善されているか
  テレビ市場
  相互扶助

2.BOPビジネスの可能性(次回)

1. ミャンマーの農村部の生活実態

ペインピンジー集落

2012年9月初めに、シャン州タウンジー県カロー群にあるヘーホーグループのペインピンジー集落(以下ヘーホー村と呼ぶ) 訪問した。シャン州はミャンマー東部に位置し、中国・ラオス・タイと国境を接したミャンマー最大の面積を持つ行政区である。カロー地区は旧英国植民地時代に避暑地として開発された地域で、現在はミャンマー軍の司令部が置かれている。ヘーホー村は、インレー湖観光の空の玄関、ヘーホー空港からまっすぐ1キロほど行くと、シャン州の州都タウンジーと農産物の集荷拠点アウンバンを結ぶ幹線道路に出る、そこを左折(タウンジー(方向)してしばらく行くと、ガソリンスタンドが右側に出てくる。このガソリンスタンドは、ヘーホーグループ長が経営している。ガソリンスタンドから車で10分も行くと、中華料理店や金物店が軒を連ねているヘーホーの中心部に着く。その中心部から、脇道に入り、土埃の中を車で10分程度のところにペインピンジー集落がある。

ヘーホーグループの人口は1.5万人、15の村落から構成されており、ペインピンジー集落はそのうちの一つである。ペインピンジー集落の人口は500人、110世帯。電気が通じている世帯は70世帯。村にある小売店は4軒、子供のおやつ、即席ラーメン、砂糖、蚊取線香、ペットボトル等日常必要なものを売っている。食料品や雑貨などの買い物は、5日かに1回、村で開かれる市場に行く。村内に医師や看護師はおらず、ヘーホー村の中心にある国営病院(医師3人)、クリニック(4箇所)に行かなければならない。村内には、2001年に開校した小学校がある。校舎と井戸は大阪の製薬会社の労働組合が寄贈したもので、石碑が建てられている。

農家は、4ヘクタール以上の農地を主有している大農家が5戸、3ヘクタール以下の農地を所有して農家が大半を占めている。農家には、農業だけで生活をしている農家(中農)と土地がやせていて農業だけでは食べていけず、日雇い労働で収入を補填している農家(小農)に分けられる。作物はジャガイモ、豆、トウモロコシなどが換金作物、コメは自家消費されている。この地域はジャガイモの特産地で農家の大きな収入源となっている。

農民の生活は、早朝から農作業に出ており、帰宅は夕方、食事後は自由時間でそのすごし方は、仲間の農民との雑談やテレビを見るなどが楽しみとなっている。情報源は、テレビ(お坊さんの説法番組など)、ラジオ(シャン州では地元向けのチェリーFMがよく聞かれている)、お金に余裕がある農家は衛星放送(スカイネット)を見ている。チェリーFMは、ミャンマー全土の3分の2をカバーする代表的なラジオ局で、音楽等のエンターテイメントが番組全体の約80%を占め、1日に2回程度作物の価格についてのニュースを流し、時々、栽培のノウハウについても放送している。

農民の1日のスケジュール(ヘーホー村)

[男性]
5:00~12:00  畑の耕し、水牛の世話
お昼家に戻る 水牛にえさやり
14:00~17:00 畑の耕し
17:00~家に戻る
19:00~食事
夕飯食べたら男同士農作業の話をする。
[女性]
4:30~6:00   起床
起床後炊事・お祈り
午前中、農作業(雑草取り・豆取りなど)
12:00~お昼(弁当を畑で食べる) 2時間くらい休む
17:00~家に戻る 
18:00~炊事・夕食
21:00~23:00  就寝

ミンクン村

2013年8月中旬に訪問したミンクン村は、ミャンマーの中央乾燥地帯(ドライゾーン)の中心であるマグウェ管区、マグウェ郡にある村で、ミンクン村は10区から成る村落区(village tract)の中心村。ミンクン村はマグウェの南に位置し、西をエーヤワディー川、南をタピャェーイン村、東をインコン村、北をトックサン村に囲まれている。

ミンクン村の人口は2,291人で、女が1,283人(56%)、男が1,008人(44%)、561軒に588世帯が住んでいる。大半はビルマ族で、全員が仏教徒である。村内には附属の高校が1校ある。医療面では、農村保健センター(Rural Health Center (RHC))がひとつある。歯科医が開設した総合クリニックも1カ所ある。薬局1軒および医薬品を販売している小さな商店が2軒ある。                                     

農民の大半は、1~4エーカーの土地を所有する小農である。また、村民の半分が日雇い労働(農業作業員)に従事している。村人の50%は土地を持たない日雇い労働者であり、日雇いで生活している世帯は150軒程存在するとのことであった。

ミンクン村は、マグウェ管区にある村落と比べて、比較的豊かな村に入る。河川を利用した灌漑システムを有していることで、農業生産に恵まれているためである。主な作物は、水稲、ゴマ、落花生、フジマメ、キマメ、ヒヨコマメ、リョクトウ、ササゲおよび飼料用作物である。これらのうち、水稲とゴマが主要な換金作物である。中央乾燥地では豊かな村といっても家屋は総じて、竹と藁でできている。

ミンクン村は、ミャンマーの近代史の悲劇の始まりとして、知られている歴史的な場所である。英国に侵略されて下ビルマを失い、マンダレーに遷都して上ビルマを治めていた王ミンドンの時代(在位 1852−1878)に遡る。ミンドン王が王の実弟であるカナウン王子を王位継承者に指名したことから悲劇が始まった。王位を継承できなかったミンドン王の息子、ミンクン王子は王に反旗を翻した。反乱はミンクン村で1866年に始まり、王位継承者カナウン王子はミンクン王子とミンコンナィン王子に暗殺された。反乱の後、ミンクン王子はミンドン王が仕向けた刺客から逃れるためにインドへ移った。その後、1885年の英国ビルマ戦争(英緬戦争)後、ミンクン村は英国の支配下となった。ミンクン村は、人口の減少と、商業圏から遠隔であったために商機も下降し、現在はどこにでもある普通の村と変わらない。遺跡を含めて44ヵ所の寺院や城砦都市であった堀と砦の跡、区画整理された広々とした町並などが、当時の面影を残しており、かつてのミンクン村の繁栄を忍ばせてくれる。

所得階層の基準

ミャンマーでは自分がどの所得階層に入っているかを決める基準は、①居住地、②職業、③教育、④所得の4の指標が使われている。

高所得者層は、親の財産を相続して、2軒以上の住居を保有。1軒は名の知れた豊かな郊外住宅地にある戸建、もう1軒は専用のリゾート地にあるおしゃれな別荘を所有。職業は、大規模および中規模の企業経営者か幹部あるいは専門職。子供は私立校に通い、優秀な大学を卒業。推定月収2,000米ドル以上。

中流階級/低所得者層は、町の中でも安全な場所、質素な戸建て、マンションまたは小さいながらも小ざっぱりとしたアパートに暮らす。ほとんどが大卒で管理職および専門職に就いている。推定月収400から2,000米ドル。

労働者階級/低所得者層は、大都市近郊の農村部、町はずれ、低価格の団地に暮らす。

熟練および半熟練の労働者、あるいは農業部門で生計を立てる人々がこれに属する。教育は高校に限定されるか、卒業前に脱落、または正規教育を受けていない。推定月収400米ドル以下。

これらの月収は2011年のデータであることから、現在では数倍に上がっている。特に都市部では、高所得層や中間層の月収が伸長しているものと思われる。ミャンマーの一人当たりGDPは、2011年で約900ドル、これはサブサハラ・アフリカの平均1300ドル(2010年)と比べても低い。しかし、ヤンゴン地域では約1700ドルに跳ね上がっていた。現在では、都市部と農村部の所得格差が拡大しているものと考えられる。

農民の生活実態事例

農村部の所得水準は上記の労働者階級/低所得者層と比べてかなり低い。筆者が、ヘーホー村やミンクン村で面談した農民は、裕福な大農家から農業だけで生活できている中農、農業だけでは生活できないため日雇い労働に頼っている農家など様々であったが、これらの農家の収入を見ると、裕富な大農家では月収が20万チャット (円貨にして2万円程度(注1))から15万チャット、農業だけでは生活できず日雇い労働に頼っている農民は5万チャット (5000円程度)であった。ミンクン村では、1日1,000チャット(100円程度)以下で生活する家庭は貧しいとみなされる。

なお、日給賃金労働者は、午前6時から午後6時まで12時間働き、日当1,400~2,000チャット(2013年9月)を得ている。賃金の額は労働者の質によって決められており、例えば収穫に熟練した者は2,000チャットになるが、除草などの熟練を必要としない作業は1,400チャットになる。また、労働者に対する需要の多寡にも左右され、需要の多い時期は2,000チャットであっても、少ない時期には1,500チャット前後になる。

ヘーホー村で面談した農民は、農業だけでは生活できず、日雇で生計を立てていた。この農民(4割が農業収入、6割が非農業収入、年齢は32歳、5人家族)の場合、月収入が日本円にして4000円から5000円。家計の支出は全体の約8割を食費が占め、次に教育費(月300円~400円)、電気代(月230円)と続く。衣料品は1年に2回程度購入するのみ。シャンプー・せっけん(ミャンマー製)は小分けで買って、毎日は使っていない。家屋は、屋根はトタン板だが、壁と床は竹。電気を引いており、電化製品が置いてあった。2011年3月に近くの雑貨店で白黒テレビ、DVDプレーヤー、炊飯器を購入している。テレビは日本製と聞いて購入したが、テレビにはサムスンのロゴがあったため、日本製ではないといったところ、店の店員がサムソンを日本企業の製品と推奨したとのことであった。

お金に余裕があるときはDVDを借りてビデオ鑑賞。ヘーホー村では2011年に豊作に恵まれて農業収入が予想外によかったことから、多くの農民が、この年に欲しいものを購入できた。この家庭も恩恵にあずかり電化製品を購入した。

ミンクン村では、70歳の男性とその嫁 (60歳) 、娘 (31歳) の3人家族の農家を訪問した。その他にも子供はいるが、マグウェに出稼ぎで家を出てしまっている。農地は水田を1.5ヘクタールと畑を2.5ヘクタール所有している。飲料水は、雨水と川の水をろ過して飲んでいる。家にはテレビやDVDプレーヤーがあり、ミンクン村では一般的な生活レベルの家庭であった。テレビは、出稼ぎに出ている息子からの贈り物であった。

農業経営は、他人に任せているようで、農薬や肥料など農業支出を帳簿につけることはやっていない。実際、娘からは、「二毛作は政府の義務付けである」「ポンプは不具合で数日作業止まることもあり、あてにできない」、「乾季の稲作は収益率が悪い」、「政府貸付は金額が不十分なだけでなく、返済の催促もうるさい。利子が怖いので作物を収穫するとすぐに支払わなければならない。」、「収穫期に雨季が始まるので保管も効かず、すぐに売る」など農業経営の難しさを指摘する声が上がっていた。

ミンクン村では跡継ぎ問題が深刻であるように見受けられた。農家を継いだとしても稼ぎにならないので、子供に農業を継ぐ意思はない。子供たちは水田の売却を父親に進言しているとのことである。親が亡くなったら、娘は農業をやめて都会に出ると断言していた。

農家の収入と支出

表はミンクン村の4戸の農家からヒアリングをして聞き取った年間の家計収入(表1)と家計支出(表2)である。

農業は農家の主要な生計手段であるが、農家の中には副次的収入源に大きく頼る農家もあれば、まったく持たない農家もいる。表2にある大農の副次的収入源は、市場での野菜販売収入である。農民の日収は3,000チャット前後で、家族の3人に2人は収入を得るために農業以外の労働に従事している。表2の中農は茹でエンドウの販売では1日当り1,500チャットの収入を得ていた。

大農でもマグウェに出稼ぎに行っている娘たちから仕送りを受けている。仕送りは不定期で、現金のこともあればモノが送られてくることもある。しかし、月額または年額いくら受け取っているのかは分からなかった。

ヘーホー村では大半の農民が農業のみで生計を立てていた。また、農民の中には農業機械・水ポンプの所有者は仲間の農民に貸し出して副収入を得ている人もいた。牛車・荷車の所有者は近くの川から水を運んだり、他の農民の農作物を村の市場に運搬して臨時収入を得ている。

4戸の農家の支出額は平均して年間120万4,060チャット、月に10万チャットほどの支出である。最大の支出項目は食費である。調査対象農家には学生や学齢期の子どもがいないので、教育に対する支出はない。他には、宗教上の寄付や社会的費用といった雑費がある。

小農の食料支出が小さいのは、収入が少ないために食費を節約している。2012年には、前年と比べて農業収入が多かったことで、衣服などの購入にお金をかけることができた。収入の記録をつけていないので分からなかったが、2012年にはゴマ1バスケット当りの市場価格は前年に比べ10,000チャット前後値上がりした。この値上がりで得た収入で、小農はこの年に電力量計を購入することができた。

表1:農家の収入と労働(単位:人、チャット)

No.農家の規模家族の
構成人数
うち農作業
従事者数
主収入副収入総収入
1大農322,044,4901,080,0003,124,490
2大農32811,700680,0001,491,700
3中農42846,3101,040,0001,886,310
4小農331,071,460なし1,071,460
合計1394,773,9602,800,0007,573,960
平均3.252.251,193,490700,0001,893,490

注:主収入(通常は農家収入)とは収入の50%を超える収入源で生計を安定させるものを指す。副収入は雇用機会や労働貢献により増減するが、例としては写真撮影、軽食販売や輸送センターでの荷物運びなどによる日給などによる。

表2:農家の年間総支出額(推計値)(単位:チャット)

No.項目大農大農中農小農平均支出
1食費1,713,7501,095,0001,277,500730,0001,204,060
2電気代21,60024,00036,00024,00026,400
3水代36,000144,00036,00054,000
4保健衛生費30,00036,00036,00030,00033,000
5被服費40,00030,00050,00050,00042,500
6社会的支出100,00050,00024,00030,00051,000
 合計1,905,3501,271,0001,567,500900,0001,410,960
2013年8月に各農家への聞き取り調査による。2013年8月で1ドルが970チャット。
注:農民は、大農(10エーカーを上回る土地を所有)、中農(所有地5~10エーカー)および小農(所有地5エーカー未満)
出所:「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査 マグウェ郡ミンクン村の事例」ジェトロ 2013年9月

借金

村民は個人的な買い物のために借り入れることはなく、借り入れは、タネや肥料の購入、農業機械への投資など農業の継続のみが目的である。低利の借り入れ先がなければ、多くの村民は農業を続けることはできない。煩雑な手続きなしで、時間をかけずに低利の融資が受けられれば、村民にとっては非常に有難いが、その機会は少ない。

ヘーホー村では国連開発計画(UNDP) が2006年から、村長が推薦した女性農民に融資を行っている。金額は最高30万チャットで、金利は3%程度である。この制度の利用者は毎月UNDPの代表者に会い、8カ月間利息を支払わなければならない。借入金(30万チャット)を返済する必要はあるが、再び借り入れることができる。しかし、UNDP の融資制度を使えない多くの家族は、友人や高利貸し、ブローカーから借り、5~10%の金利を支払っている。肥料は収穫後に5%の利息を支払えば購入できる。

デルタ帯では、政府の制度を利用して農業銀行から融資を受けることができる(利息0.75%)が、2エーカー以上の農地を持つ農民が対象である。

また、マイクロクレジットの貸し手から利息5%で融資を受けることもできる。10~20%の利息を支払って高利貸しから借りている者もある。

ミンクン村には、月10%の利子でお金を貸す非公式の貸貸金業者がいるとのことであった。

農村生活は改善されているか

ミャンマーの農村地域では生活が改善されているのか、そうでないのか。それを判断する材料の一つは、家の作りである。屋根が藁葺きかトタンか、壁は竹か煉瓦か、床は竹か木材。トタン・煉瓦・木材の家が多い農村では、多くの家庭が比較的豊かであるといえる。藁葺き・竹・竹の家が多ければ、貧しい農村である。家は竹造りの家は、土ほこりが家の隙間から入ってくる。床からは蚊が、雲霞のごとく湧き上がってくるという。

第1の視点から見ると、ヘーホー村(ペインピンジー集落)は、トタン屋根、煉瓦の壁に木材の床の家が多くみられ、比較的豊かな村という印象を持った。訪問した年の前年(2011年)が、豊作で農業収入がよかったことで家の修築や家財を購入出来たとのことであった。

他方、ミンコン村では、最もよく見られるのは竹造り・藁葺きの家で、家屋全体の86%(約485軒)を占めていた。家の作りは、農産物や農具を貯蔵し、自由時間中にゆっくり休息できるよう、家屋は高床式で、床下には開放空間がある。裕福と見なされる農家(農地が10エーカーを上回る大農)は10世帯程あったが、家屋は2階建て、屋内に台所がある。壁と1階の床がコンクリート造り、2階の壁はコンクリート、床は竹で造られている。大農には井戸がある。

もう一つが電気のアクセスが確保されているかどうか。農村地帯では多くの人が電力を切望し、誰もが冷蔵庫、炊飯器、(良質な)テレビ等の「基本的な」家電製品を手に入れて生活水準を改善したいと願っている。電気を引くことができた家庭は、趣味・娯楽、情報収集、調理や薪拾いの時間節約等いろいろな面で生活を楽しむことができる。

訪問した2つの村とも電気のアクセスが確保されている。しかし、電気を使うことができる家庭は、ヘーホー村で半分程度と全戸に普及していない。ミャンマー政府は、1973年に農村電化をはじめたが、ヘーホー村で電力にアクセスできるようになったのは数年前のことである。マグウェのミンコン村も、調理(炊飯器)と照明の両方で電気が使えるようになっているようである。デルタ地帯に行くと集落の周辺に送電線がない村が多い。村民はバッテリーで照明やテレビを使用している。

農村部における、家電製品の保有状況を見ると、大農家の家庭では、テレビ、DVDプレーヤー、スカイネット衛星有料放送、アイロン、扇風機、炊飯器、冷蔵庫や調理鍋等購入できる製品はすべてそろっている。普通の農家でも、炊飯器、テレビ、アイロン、DVDプレーヤー、扇風機を所有している。裕福でない家庭でも電気があれば、炊飯器、白黒テレビ、充電式懐中電灯は必ず置いてある。今では、テレビを有していない家庭こそ、村における貧しい家庭であるといわれている。

テレビ市場

ミャンマーでは、テレビが普及しているが、市場の55%は中国企業ブランド品。次に、FujiやStarなどの国内ブランドも合計で17%と大きなシェアを獲得しており、市場第2位となっている。中国ブランドと比較すると、東芝やソニーなどの高級ブランドはほとんど市場シェアを獲得できていない。表は、ヤンゴン市内の輸入業者、ディストリビュータ、家電専門小売店、百貨店の21インチカラーテレビの販売情報(2011年11月)を基にブランド別市場シェアを推計したものである。

ミャンマーでは低価格市場がボリュームゾーンであることから、中国およびミャンマーの企業は低~中価格TVの販売に力を入れている。こういったTVの価格は90米ドルから最高でも100米ドルと、手頃な価格が付けられている。長虹など一部の中国製TVは、国内ブランド品よりも低い価格が付けられている。一般的に、中国製TVのほとんどが競合ブランドより非常に低い価格となっている。保証のないTVは、保証付きTVと比べて20,000から30,000チャット安くなっている。

売れ行きの良いTV(21インチカラーテレビ)ブランド(2011年11月時点)

順位ブランド名製品の製造国・輸入先価格
(チャット)
売れ行きマーケットシェア
推定
1长虹中国70,000良い12%
2T- Home中国78,000良い12%
3Fujiミャンマー73,000良い10%
4TCL集团中国78,000良い10%
5Nibban中国80,000良い9%
6Starミャンマー73,000良い7%
7Samsungタイ165,000普通6%
8LGタイ、シンガポール165,000普通6%
9ソニータイ、マレーシア250,000普通5%
10東芝タイ135,000普通5%
ヤンゴン市内の輸入業者、卸売業者、専門小売店、百貨店、伝統的市場等の販売担当者からのヒアリング情報に基づき推計。1ドル=770チャット、1ドル=77円(2011年11月)
出所「ミャンマー市場における中国企業ブランド」ジェトロ、2012年3月

相互扶助

大半の農民生活は、毎日、極めて質素に生活をしている。これは、消費財に対する欲求がないということではない。冷蔵庫を欲しがっている農家は複数あった。また、オートバイを持っていない小農は、移動を容易にするために購入したいと考えていた。さらに、戸棚などの家具を備えたいとの希望もあった。しかし、農民は可処分所得に余裕がないので、消費財に対する欲求はとても控えめである。

農民は、消費財に散財するよりは、むしろ僧院に寄付したり、他人を助けたりすることに積極的である。特に、ミャンマーの2つの農村を訪問して印象的であったのは、村人たちの助け合いが農村生活を豊かにしていることである。ヘーホーで荷物の運搬を仕事にしている人の話では、急病人が出た時には、いつでも牛車に乗せて病院まで運ぶとのことであったが、お金は取らないと言っていた。村を離れたくない理由もこのコミュニティの絆の強さにある。

ミンクン村には、隣人は寄付行為や葬儀に関し相互に扶助する精神が生きている。「ある区の住民の1人が寄付を集めるとなった場合、区の住民全員が仕事を中断し、寄付集めを手伝う。葬儀や結婚式も同様である。来賓のための調理、清掃および会場の準備に力を貸す。ミンクン村と町とをつなぐ村道の状態は悪い。村人たちは橋の建設や道路の修復に労働や資金を提供する。また、農業部門では灌漑水路の維持も行っている。蛇に咬まれるなど救急医療が必要な際には、農民たちは医療費を支払う余裕のない救急患者にかかる医療費や交通費を工面するために寄付を行う。」(前出「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査」より)

(注1)ミャンマーの通貨チャットの対ドルレートは、2012年9月時点で1ドルが870チャット、2013年8月で1ドルが970チャット、2014年5月は1ドルが960チャット。円に対しては、2012年9月で1000円が約11000チャット、2013年8月で1000円が9900チャット2014年5月は1000円が約9600チャット。本稿では1000円が約1万チャットとして換算している。

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