2005/05/18 No.078_2アジア・南米の絆を形成する移民ネットワーク〜在日日系人とウチナーンチュ〜
内多允
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学 教授
大きい日本からの送金規模
日本人の移民といえば、日本から海外(主に南米)への移住を考えがちである。これはもはや過去の話となった。現在は南米から日本への日系人出稼ぎが増えている。出稼ぎという言葉は、日本で短期間働いて母国へ帰るというイメージが強い。しかし、実態は滞在期間が長期化しており、南米日系人が日本に移住していると言えるだろう。定住傾向を強める日系人の母国への送金規模が大きくなっている。中南米地域でも移民や出稼ぎ労働者の海外からの送金規模が大きくなっていることを反映して、その経済効果への関心が高まっている。南米日系人の出稼ぎ(或いは移住)のために渡航する先は、日本に集中している。IDBが沖縄総会で南米と日本との連携を強める要因として、移民(出稼ぎ)や送金を重視する姿勢を打ち出したのもこのような状況が影響している。「日系」や「出稼ぎ」といった言葉もローマ字表記で関係国で使用されていることからも、日系人と日本との絆が注目され、その独自性が注目されていることがうかがえる。ちなみに英語で「dekasegi」(或いはdekasegui)、「Nikkei」、スペイン語で「dekasegui」、「Nikkei」そしてポルトガル(ブラジル)語では「dekassegui」(またはdekasegui)、「Nikkey」と表記されている。IDBの発表や関連報道でも英語表記の場合は、日系人のmigrantworkersをdekasseguiと表記している。
IDBは沖縄総会で、在日ラテンアメリカ出身の日系人による送金の実態に関わる調査報告を発表した。同報告書はIDBの系列機関であるMultilateral Investment Fund(略称MIF)と米国のヒスパニックや移民問題に詳しい調査機関Bendixen&Associatesによる共同調査(タイトル:Remittances from Japan to Latin America〜Study of Latin American immigrants livingand working in Japan、55頁)である。このタイトルでimmigrantsという単語をつかっているように、同報告書では在日ラテンアメリカ系を移民として捉えている。その実態は、日系出稼ぎ労働者である。
日本から中南米への日系人の送金規模が大きくなっていることを、IDBや中南米の金融機関も注目している。今回発表された調査は2005年2月2日から28日にわたって、日本在住のラテンアメリカ系移民成人1,070人を対象とするインタビュー方式で実施された。同調査によれば、在日ラテンアメリカ系(実態は日系人)成人の送金に関する次のようなデータが発表された。なお、以下の記述の情報源は前記の調査報告に加えて、IDB発表による要約版(日本語タイトル:日本から中南米への送金、5頁)と関連のプレスリリースである。ラテンアメリカには約150万人の日系人が居住している。その大半は20世紀初頭に日本から移住した。ラテンアメリカからの移民の多くは、米国やヨーロッパ(特にスペイン)に向かうが、日系人は日本を選ぶ傾向が強い。日本に居住しているラテンアメリカ出身の日系人(以下、本稿における日系人は日本に在住しているラテンアメリカ出身者)は約43万5,000人に上る。その70%(約30万5,000人)が定期的に母国へ送金している。平均的な送金状況は1回当たり600ドル、年間14.5回送金している。日系人の送金規模は年間26億5,000万ドルと予想される。その送金先の国別内訳はブラジル22億ドル、ペルー3億6,500万ドル、その他(ボリビア、パラグアイ、コロンビア)1億ドルとなっている。これらの送金処理業務回数は年間450万回に達している。
以上の送金規模は、日本から中南米に供与しているODA(外務省の二国間ベース予算についてのデータによる)総額を超えている。同総額は1995年の11億4,155万ドルから、03年は4億6,387万ドルに低下した。中南米に送金をしている日系人の実態について、前記調査は次のように報告している。先ずその半数以上の年令は25才から49才の年令層である(25〜34才が37%、35〜49才は38%を占めている)。日本での在住期間は5年未満が45%、5年から10年が29%、10年以上が25%それぞれ占めている。ペルー出身の日系人に限れば、ほぼ50%が10年間以上にわたって日本に居住しており、滞在の長期化が目立つ。
日系人の最終学歴は84%が高校卒以上の層で占められている(この内、32%が高校卒)。米国におけるラテンアメリカ系の高校卒が17%に対して、日系人の学歴構成比率が高いことが際立っている。
日系人の年収についての回答内訳によれば無回答(40%)を除けば、3万ドルから5万ドルの間が32%を占めた。これに次いで3万ドル以下が16%を占めた。5万ドルから7万5,000ドルが10%、7万5,000ドル以上が2%となっている。このような所得水準は米国におけるラテンアメリカ系労働者のそれ上回っている。日本在住の日系人は収入の約20%を送金しているが、これは米国のラテンアメリカ系の約2倍の規模である。日系人の送金者の90%以上が日本で銀行口座を開設しており、半分以上が母国にも銀行口座を持っている。日本の送金コストは3%で、世界で最も安いコストであろう。米国のそれ(電信送金)は7%以上である。
調査対象者の85%が貯蓄をしていると回答しており、他のアジア系と同じように貯蓄・投資志向の高さがうかがえる。日系人の貯蓄目的として「母国での起業」に19%、「日本での起業」に8%が回答している。貯蓄とは関係なく起業については40%が母国で、日本で14%がそれぞれ計画していると回答した。一方、他の国におけるラテンアメリカ系移民がこのような投資目的を持つ割合は、10%以下であるとIDBは指摘している。この数字からは日系人の日本滞在が長期化しているとは言え、母国での起業を計画している回答が最も多いことは、母国との絆が強いことが表れている。
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