一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2009/06/12 No.125GMの独子会社オペル救済措置が決定

新井俊三
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

米国のGMの破産法申請が確実になったことを踏まえ、そのドイツ子会社であるオペルの救済措置が5月30日午前2時、数時間にわたる交渉の末合意された。救済協議には親会社であるGMおよび独・米両政府代表のほか、オペルの工場のあるドイツの4つの州政府代表も参加した。

合意された内容は、カナダの自動車部品メーカーであるマグナが中心になり再建するもので、マグナはオペルの新会社に20%出資、マグナと組んだロシアのズベルバンクが35%出資し、オペルの親会社GMがやはり35%出資、残りの10%をオペル従業員・販売店代表が出資するものである。新会社ができるまでは、信託会社が管理し、つなぎの融資15億ユーロについてはドイツ連邦政府と工場のある4つの州政府が共同で融資保証をすることとなっている。

オペルは1862年にドイツで設立され、既に1929年にはGMの傘下に入っていた。従業員数は約2万5,000人、2007年には約130万台を欧州で販売している。金融危機の影響で販売不振に陥り、親会社GMからの資金も当てにできないことから、昨年11月ドイツ連邦政府および工場のある州政府に対し信用保証を要請していた。それ以降親会社から独立し、政府保証によるオペル独自の再建策、アラブからの出資などを模索していたが、結局外部からの買収という方法に落ち着いた。

オペルの買収については、マグナ・ズべルバンク連合のほかにもフィアット、リップルウッドの子会社であるRHJインターナショナル、北京汽車なども関心を示していた。マグナの再建計画が評価されたのは、工場の閉鎖もなく、従業員の解雇も少ないことによる。クライスラーを買収し、さらにオペルも傘下に入れようとしたフィアットは、あとで修正したとはいえ一部工場の閉鎖や従業員の大幅な削減なども含まれていたため脱落した。また、両社の生産車種が似かよっているというのもマイナスとなった。

救済協議が長時間に及んだのはドイツ政府内で意見の対立があったためで、担当大臣であり、就任後間もないキリスト教社会同盟(CSU)所属のグッテンべルグ経済大臣が、辞任もちらつかせながら反対した。同経済大臣は、戦後ドイツの経済運営の基本原則である社会的市場経済にてらして、政府が民間企業の経営に過度に介入することを警告し、再建を前提とした倒産を主張した、といわれている。

ドイツでは今年の9月に連邦議会選挙が予定されており、たとえ財政負担が増えても、職場を確保することは政権与党にとっては至上命題である。倒産という言葉のマイナスな響き、倒産後の再建策が描けないということで経済大臣は孤立し、最後には政府支援による救済を認めた形となった。

オペル救済劇は選挙の前哨戦となった感がある。オペルの経営が問題視されてから、連立を組むキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)はオペル救済をどう演出するかに腐心している。昨年11月にはメルケル首相(CDU)がオペル代表者をベルリンに召集し、再建策を協議したが、同じ時期にシュタインマイヤー外相(SPD)はオペルの労組代表をベルリンに呼んでいる。メルケル、シュタインマイヤー両氏は9月の総選挙で首相候補として争うことになっているが、シュタインマイヤー外相がオペル救済に関し、米国のクリントン国務長官と電話協議したと外務省が発表すれば、その直後に、メルケル首相はオバマ米大統領と話をしたと報道する、というありさまである。

米露による支援か

オペル買収に名乗りを上げたマグナ社は、オーストリア出身のストローナック氏により1957年に設立され、一代で大企業となったカナダの自動車部品メーカーである。ボディー・シャーシー、パワートレイン、内装、座席、電子システムなど製造品目は多岐にわたる。2007年の売上が250億米ドル、従業員数は約7万4,000人、世界25カ国に進出し、240の工場を持つ。自動車部品の製造だけでなく、ベンツ、クライスラー、BMWなどの委託生産も行っている。マグナのGMグループ向けは同社の売り上げの19%を占めるといわれており、しかもその大半がオペル向けということから、オペルの救済はマグナの販売先の確保という意味もあった。

マグナと組み、35%出資するロシアのズベルバンクはロシア連邦中央銀行が約60%の株式を持つ、いわば国営銀行であり、頭取も元経済大臣のグレフ氏である。出資はしないが、ズベルバンクのパートナーとしてオペル再建に参加することとなっているのがロシアの自動車メーカーGAZである。このGAZの所有者はロシアの富豪デリパスカ氏であり、プーチン首相とはきわめて近い関係にある。デリパスカ氏自身は一時期マグナの株を約20%所有していた。

こうしたことから、ロシアとしては技術的に優れたドイツの自動車メーカーを獲得すること、それによりロシアの自動車産業の発展を図る意図があるのではないか、とドイツのマスコミは報道している。影で糸を引いているのがプーチン首相というわけである。

GAZは2008年で約1.2億ユーロの損失を出しており、製造している乗用車ヴォルガのロシア市場でのシェアもわずか0.2%にすぎない。国の債務保証、国からの注文等によってかろうじて会社が維持されているため、オペルのノウハウによって業績の向上を図りたい意向である。たま、将来的にはオペル車の生産により職場を維持したい、ともいわれている。

ズベルバンクと同様35%出資する親会社であるGMは、一時的とはいえ米国の国有企業ともいえ、上記のようにロシアの資本も入いることから、ドイツの新聞ではオバマ大統領とプーチン首相の両者の顔写真を掲載して、「オペルの稀有な救済」とタイトルをつけているものもある。(6月1日付フランクフルター・アルゲマイネ紙ウェブ版)

基本合意はできたものの、マグナ社としてはこれから細部をつめてオペルの将来設計を描き、9月末までには契約にこぎつけたいとしている。オペルの経営危機は今回の世界金融・経済危機で加速化されたとはいえ、経営体質はそれ以前から問題視されていた。欧州自動車市場での新車登録台数のシェアも、2005年の9.0%から06年には8.6%となり、07年は8.4%、08年は7.9%(欧州自動車工業会ACEA調べ)と低下傾向にある。魅力あるモデルも乏しいと指摘されていた。GMとの合意で新会社が米国、中国市場に参入できないこともマイナスである。再建には困難が予想される。

マグナが自動車部門に進出することによるマイナスもある。部品メーカーとしては製造過程でセットメーカーの秘密を知る立場にあり、自社の製造の秘密が自動車メーカーともなったマグナに流れる可能性もある。すでにフォルクスワーゲンなどは取引に慎重になっている。

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