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2013/01/21 No.162ASEANにおける交通・運輸分野改善がもたらす「接続性」の強化−ASEAN経済共同体(AEC)に向けた取り組みの柱として−

春日尚雄
ITI「ASEAN経済共同体(AEC)研究会」 委員
亜細亜大学アジア研究所 嘱託研究員

はじめに

ASEAN各国のめざましい経済成長は、域内への継続的な外国直接投資によって支えられてきた。外国資本にとってAFTA(ASEAN自由貿易地域)の進展と交通分野におけるインフラの改善は、関税の削減とサプライチェーンが確保されることであったが、同時に今後のASEAN地域統合のより幅広い深化を見据えた進出でもあった。ASEANは1992年から始まったAFTAを利用した経済ネットワークを中心に構築してきたが、現在では経済(AEC)、政治・安全保障(APSC)、社会・文化(ASCC)の3つの共同体から構成されるASEAN共同体を創設しようとしている段階にある。2007年11月の第13回ASEAN首脳会議で採択されたAECブループリントでは、2015年までのASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC)実現のための行動計画を示している。ここではAECの4つの特徴として、?単一の市場と生産基地、?競争力のある経済地域、?公平な経済発展、?グローバルな経済への統合、をあげている。こうした目的のためAECブループリントでは、17の中核要素と176の優先事業を示し数々の取り組みがなされているが、本章ではASEAN域内の交通・運輸分野の改善と接続性(connectivity)を高めることが、AEC形成のための重要な要素となっていることを示してゆきたい。

この「接続性」については、2010年10月のASEAN首脳会議で採択されたASEAN接続性マスタープラン(MasterPlanonASEANConnectivity:MPAC)において示された。陸・海・空に関する15の優先プロジェクト・課題が合意されたが、接続性についてはASEAN統合を支えるための、①ハードインフラのような物理的な接続性(Physical connectivity)、②ソフトインフラのような制度的な接続性(Institutional connectivity)、③教育、文化といった人的な接続性(People-to-Peopleconnectivity)といった事柄をカバーした事項として分類、定義されている(注1)。

2015年のAEC形成までのASEAN域内の交通協力に絞った、5カ年計画を示した2010年のブルネイ行動計画(Brunei Action Plan 2011-2015 : ASEAN Stragic Transport Plan)では、①陸上輸送、②航空、③海上輸送、④交通円滑化、の4つのセクターに分け、それぞれ目標と戦略的な推進方法を明示している。各セクターにおける協力の枠組みや、ワーキンググループ会合による推進、2015年以降の見通しなどにも触れていることが特徴となっている。

こうした交通・運輸分野の改善がASEANの接続性を強化し、これがAECひいてはASEAN共同体を成功させるための鍵であるとも言われている。ASEANの2010年から2020年にかけてのインフラ投資は、年間600億USドルとなることが予測されている(注2)。日本からは2008年に設立された東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)が、こうした構想の具体化について大きな支援をおこなっている。またAECスコアカードの評価が定期的に行われているが、2008年から2011年の4年間の合計で78の施策のうち交通運輸が39を占めており、施策数に対する比重は高い。また十分に実施されていないとされた交通運輸の施策の比率は高く、他分野に比べて改善の余地があるとされている(注3)。

続きはこちらからご覧下さい(PDFファイル)

(注1)ASEAN Secretariat[2010b] .Master Plan on Asean Connectivity, p.2。

(注2)ADB,ADBI[2009].Infrastructure for a Seamless Asia, ADB, ADBI.

(注3)ASEAN Secretariat[2012]. ASEAN Economic Community Scorecard: Charting Progress Toward Regional Economic Integration PhaseⅠ(2008-2009) and PhaseⅡ(2010-2011).

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