一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2016/12/13 No.310米国のTPP離脱の衝撃:トランプは本当に墓穴を掘るのか

馬田啓一
(一財)国際貿易投資研究所 理事・客員研究員
杏林大学 名誉教授

米大統領選では大方の予想に反して、TPP(環太平洋パートナーシップ)からの離脱を明言していたドナルド・トランプ候補が勝利し、米国の次期大統領になる。これにより、今後の通商秩序の先行きが非常に不透明となってしまった。米国のこれまでの通商戦略のシナリオもまさに崩壊寸前といえる。

TPPが、アジア太平洋における米国の影響力を強める最も重要な手段の一つであることは今さら言うまでもなかろう。しかし、オバマ大統領がいわゆる「レームダック会期」に議会からTPP法案の承認を得る可能性はもはやなくなり、トランプ新政権の下で、TPPが批准される見通しも全く立っていない。

TPPが米議会で批准されなければ、米国はアジア太平洋の通商ルールづくりの担い手となる権利を放棄することになる。中国がアジア太平洋の覇権を狙い、米国に取って代わろうと積極的に動いているだけに、TPPをめぐる米国の失態による影響は非常に大きいと言わざるを得ない。

1. 米国にとって「不都合な現実」

TPPの崩壊は、中国にとっては喜ばしいことに違いない。習近平国家主席も笑いが止まらないだろう。中国は自由化レベルの高いTPP交渉には参加できなかった。昨年10月にTPP交渉が妥結した直後、台湾、韓国、タイ、フィリピン、インドネシアなどがTPP参加の意向を表明した。TPPによる中国包囲網を警戒していた中国は焦ったはずだ。

米国はTPPの発効後、将来的に中国も含めてTPP参加国を拡大し、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を実現しようとしていたからである。国有企業、政府調達、知的財産権などで問題の多い中国に対して、TPPへの参加条件として、「国家資本主義」からの転換とルールの遵守を迫るというのが、米国の描くシナリオであった。

周りの国が次々とTPPに参加し、中国の孤立が現実味を帯びてくれば、中国は参加を決断せざるを得なくなる。TPPへの不参加が中国に及ぼす不利益(貿易転換効果)を無視できなくなるからだ。2013年9月に上海市に設立され、その後、広東省、福建省、天津市などにも拡大している「中国自由貿易試験区」は、中国が選択肢の一つとして将来のTPP参加の可能性を強く意識し始めていることの表れだった。

TPPを葬れば、米国は自ら「墓穴を掘る」ことになる。中国の影響下で通商ルールがつくられる絶好の機会を、中国に与えることになるからだ。TPPに代わって、中国が肩入れするRCEP(東アジア地域包括的経済連携)がアジア太平洋の新たな通商秩序の基盤となろう。ASEAN+6によって現在交渉中のRCEPは、中国がもともとTPPへの対抗策としてその実現を働きかけたもので、TPPよりずっとレベルの低い貿易協定である。RCEPに米国は参加していない。

中国は、RCEPの「運転席」にASEANを座らせた。米国がアジア太平洋への関与を強めるなか、米国に対抗するにはASEANを自陣営につなぎ留めておくことが欠かせないと考えたからだ。アジア太平洋における経済連携の動きは、米中による陣取り合戦の様相を呈し始めていた。それが一転して、米国の自爆によってTPPが頓挫すれば、東アジアでの影響力の拡大を狙う中国の思う壺である。

トランプは、いま東アジアで起きている米国にとって「不都合な現実」を直視すべきだ。覇権国の座を狙う中国の台頭という新たな地政学的リスクに対応しなければならない。トランプ新政権の対応がまずければ、米国はきっと東アジアから締め出されてしまうだろう。それは、東アジアにおけるビジネスチャンスの拡大を狙って、TPPの実現に向けてオバマ政権に支援と圧力をかけてきた米産業界にとっても、想定外の展開に違いない。

2. 2国間FTAは世界貿易の潮流に逆行

一方、トランプは、TPPから離脱する代わりに、主要な貿易相手国とは2国間FTA(自由貿易協定)を締結していくと言い出した。しかし、それは世界貿易の潮流に逆らうものであり、周回遅れの発想だ。2国間FTAに飽き足らず、メガFTAの締結を強く望んだのは米産業界である。米産業界も、トランプ政権の新たな通商戦略に危うさと不安を感じているのではないだろうか。

そもそもTPPをはじめとするメガFTAの締結に向けた動きが活発となった背景には、加速するサプライチェーン(供給網)のグローバル化がある。企業による生産拠点の海外移転が進むなか、今や原材料の調達から生産と販売まで、グローバル・サプライチェーンの効率化が企業の競争力を左右する。これが21世紀型貿易の特徴である。企業の国際生産ネットワークの結びつきを妨げる政策や制度は、すべて貿易障壁となった。ルールの重点は、関税から国内措置にシフトしている。

他方、サプライチェーンのグローバル化に伴い、2国間FTAの限界も明らかとなった。2国間FTAでは、サプライチェーンが展開される国の一部しかカバーされない。サプライチェーンをカバーするために複数の2国間FTAを締結しても、FTAごとにルールが異なれば、企業にとっては煩雑で使い勝手が悪いものとなる。サプライチェーン全体をカバーするには、メガFTAが必要だ。

このように、企業による国際生産ネットワークの拡大とそのサプライチェーンのグローバル化に伴い、これまでの枠を超えた21世紀型の貿易ルールが求められている。ドーハ・ラウンドが停滞するなか、そのルールづくりの主役はWTO(世界貿易機関)でなく、メガFTAである。

そうした中、メガFTA交渉のうち最も先行していたのがTPPである。交渉を主導した米国は、TPPを「21世紀型のFTA」と位置付けて、高いレベルの包括的なFTAを目指した。TPPは、関税撤廃よりも非関税障壁の撤廃につながる「WTOプラス」のルールづくりに、大きな意義を見出すことができる。

米産業界は、TPPをアジア太平洋における米企業のビジネス環境を改善する絶好のチャンスだとみている(注1)。TPPのルールがアジア太平洋における米産業の競争力にとって大きな意味を持つと考えている米産業界が、「TPPの葬式」を黙って見過ごすとは思われない。米産業界がさほど騒いでいないのが薄気味悪い。「嵐の前の静けさ」で、就任式まで様子見の構えか。トランプ新政権が発足すれば直ちに反撃に転じ、水面下で激しいロビー活動を展開するのではないか。

3. FTAAP実現への道筋:変わる力学

APEC(アジア太平洋経済協力会議)は、2010年の首脳宣言「横浜ビジョン」によって将来的にFTAAPの実現を目指すことで一致しているが、TPPルートかそれともRCEPルートか、さらに、両ルートが融合する可能性があるのか否か、具体的な「FTAAPへの道筋」については明らかでない。

FTAAPへの道筋としてTPPとRCEPをめぐる米中の角逐が激しくなるなか、14年11月のAPEC北京会合では、FTAAP実現に向けたAPECの貢献のための「北京ロードマップ」策定が主要課題となった。議長国の中国は、FTAAP実現のための具体的な交渉をAPECで開始するため、首脳宣言にFTAAP実現の目標時期を2025年と明記し、具体化に向けた作業部会の設置も盛り込むよう主張した。しかし、FTAAPをTPPの延長線に捉えていた米国がTPP交渉への影響を懸念し強く反対したため、FTAAPの「可能な限り早期」の実現を目指すと明記するにとどまり、具体的な目標時期の設定は見送られた。

他方、作業部会については、TPPやRCEPなど複数の経済連携を踏まえFTAAPへの望ましい道筋についてフィージビリティ・スタディ(実現可能性の共同研究)を行い、その成果を2016年末までに報告することとなった。ただし、研究報告の後すぐにAPEC加盟国がFTAAP交渉に入るわけではない。研究とその後の交渉は別というのが、米国の立場であった。

習近平は、FTAAP実現に向けた「北京ロードマップ」を「歴史的一歩」と自賛した。しかし、北京ロードマップは米国によって横車を押され、当初中国が意図していた作業部会の設置と目標時期の設定は、完全に骨抜きにされた感は否めない。

FTAAPのロードマップ策定についての提案は、中国の焦りの裏返しと見ることができる。TPP交渉に揺さぶりをかけるのが真の狙いだった。TPP交渉が妥結すれば、FTAAP実現の主導権を米国に握られてしまう。FTAAPへの具体的な道筋について、中国としては米国が参加していないRCEPルートをFTAAP実現のベースにしたいのが本音だ。そこで、中国はTPP以外の選択肢もあることを示し、ASEANの「TPP離れ」を誘うなど、TPPを牽制したのである。 

2015 年11月、フィリピンのマニラでAPEC首脳会議が開催された。「北京ロードマップ」の採択からちょうど1年、TPPかRCEPか、FTAAPへの道筋をめぐる米中のつばぜり合いが再び繰り広げられた。

首脳宣言ではFTAAP実現に向けた取り組みの強化が確認されたものの、TPP大筋合意によるTPP参加の流れを止めたい中国が、TPPの文言を盛り込むことに反対、その是非をめぐり激しい応酬があった。結局、「TPP交渉の大筋合意を含む域内FTAの進展とFTAAPへの道筋に留意し、RCEP交渉の早期妥結を促す」という形で、TPPとRCEPの両方に等しく言及することで決着した。TPPを軸としてFTAAP実現に向けた動きが一段と加速していくと、誰もが予想していた。

ところが、「まさか」の展開となった。2016年11月、TPPの発効がトランプの米大統領選勝利で困難視されるなかで、ペルーのリマでAPEC首脳会議が開かれた。FTAAPに関する「リマ宣言」では、「FTAAPはTPPやRCEPを含む地域的枠組みを基礎に構築される」ことを再確認し、「TPP参加国による国内発効手続きの完了、RCEP交渉の加速化に向けて努力する」との認識を共有した。各国はTPPの発効に向けて「協調を演出」した。

また、FTAAP交渉の開始には触れず、2年間行ってきた共同研究に基づいて、「各国は2020年までに、FTAAP実現に向けた道筋の貢献についての検証を行い、課題が多く残っている分野を特定し、作業計画を策定し対処していく」との方針を確認した。

しかし、FTAAPへの道筋についてAPEC内の力学は一変した。TPPが視界不良となる中で、これまでTPPの脇役でしかなかったRCEPの存在感が増したことは否めない。TPPの崩壊危機を絶好の機会と意識した習近平は、途上国でも参加し易い低レベルのRCEPを軸に据える考えを鮮明に打ち出すなど、米国に代わり中国がFTAAPの実現を主導する構えを見せた。

TPPは今後どうなるのか、APECのどの国も様子見の状態である。米国のTPP離脱が確実になれば、包括的で質の高いTPPを米国抜きで実現するインセンティブは失われ、TPPからの「離脱ドミノ」が起こる可能性も否定できない。トランプ新政権はTPPだけでなく、米国が提唱したFTAAP構想にも冷淡になってしまうのか。もしそうなれば、TPP参加国の信頼を裏切った米国の代表は、APECでしばらくは「針の筵」に座ることを覚悟しなければなるまい。いずれにしても、現時点では、トランプ・ショックによって、果たしてFTAAP実現への道筋がどうなるのか、先行きは不透明となってしまった。

4. TPPは「ポスト真実」の被害者

TPPが頓挫しかねない状況に陥った事実は、英国のEU離脱問題と同様、ポピュリズム(大衆迎合主義)の危うさを表す事例といえよう。自由でオープンな社会を重視してきた米国において、民意の地殻変動が起きている。グローバル化の波に乗り切れない米国のプア・ホワイト(白人貧困層)を中心に、自由貿易の推進に懐疑的な見方が広がり、過激な発言で米国の保護主義を煽るトランプ氏に支持が集まった。

「ポスト真実(post-truth)」という言葉が今年の流行語になっている(注2)。「ポスト」とは「重要でない」という意味だ。今や政治家は、選挙に勝つためなら何をいっても許される。ポピュリズムに悪乗りし、目的を遂げるために堂々と虚偽を語るようになった。後で真実とは違うとわかっても、発言を撤回すれば許されてしまう。たとえ確信犯でも「お詫びと訂正」で逃げられる。真実がもはや重要ではなくなってしまった。

TPPは「ポスト真実」の被害者と言ってよい。今回の大統領選で、トランプ旋風によって、TPPはすっかり悪者になってしまった。諸悪の根源が自由貿易であり、TPPのせいで米国の製造業が打撃を受け、労働者の雇用が奪われるといった極めて正確性に欠く荒っぽい議論が展開されたのは、米国にとって不幸なことである。虚偽に近い議論によって、TPPが米国にもたらす経済的なメリットも、安全保障上の戦略的価値も完全に吹っ飛んでしまった。誠に情けない結末である。

自由貿易がすべて悪いわけではない。それによって不利益を被る企業や労働者に対するセーフティネットが不十分であったことに大きな問題がある。今回のプア・ホワイトの反乱で、米国のTAA(貿易調整支援)も見掛け倒しで、弱者救済のための有効な制度ではなかったことが露呈した。保護主義は決して問題の解決にならず、自滅への道でしかない。

「ポスト真実」のツケは大きい。TPPを悪者にした大統領選の後遺症は、そう簡単には癒えないだろう。トランプが「就任100日行動計画」の中でTPP離脱を明言している以上、2年後の米中間選挙を意識すれば、「米国にとってプラスになるように変えた」という形をつくらずに、米新政権が現行のままTPPを容認するのは極めて困難な状況である。トランプ新政権の下でTPP離脱が回避され、TPP発効に向けて首の皮一枚残るとしても、TPPの見直し、すなわち、協定内容に実質的な変化がなければ、米国でTPPの批准は得られそうもない。しかし、それは、他のTPP参加国からすれば、更なる譲歩を迫られる「ふざけた話」に映るに違いない。各国の利害が交錯するなか、5年半にわたる交渉の末にようやくまとまったガラス細工のようなTPP合意だ。もし再交渉になったとしても難航するのは必至だ。片足を棺桶に突っ込んでいるTPPをどうするか、他の11カ国にとって悩ましい問題となってしまった。

5. 背水のTPP:落としどころは良くても再交渉

多少は時間がかかるが、違う名称を付けて衣替えし、厚化粧もさせた「TPP修正版」という形で、最終的には成立するのではないかという見方は、あまりにも楽観的すぎるだろうか。TPP推進論者の未練と見えるか。

APECペルー会合の閉幕直後に、トランプがビデオを通じてTPP離脱を改めて明言した結果を見る限り、安倍・トランプ会談では、残念ながら安倍首相のTPPへの熱意は効を奏しなかったようだ。しかし、来年1月の大統領就任から100日間、まだまだ打つ手は色々とあるだろう。

トランプは「米国の不動産王」として名を馳せた人物である。体に染みついた不動産ビジネスの常套手段を外交戦略に使っている節がある。どんなに優良な物件(TPP)でも絶対に買いたい(批准)とは言わない。ケチをつけて買わない素振り(TPP離脱)を見せて、売り手にもっと値段を下げさせる(再交渉)。「離脱と言って、最後の落としどころは再交渉」という筋書きだが、民主党候補のヒラリー・クリントンの再交渉発言を強烈に批判した手前、再交渉に持ち込むには手の込んだ芝居が必要である。商務長官起用が決まったウィルバー・ロスは、自由貿易推進論者であり大統領選でもTPPを支持したが、トランプに同調して「TPPはひどい協定だ」と言い出したのは、きっと何か裏がありそうだ。

米議会の上院と下院の選挙では、いずれも共和党が過半数を取った。TPP発効を求める米国の産業界と共和党議員たちが、あの手この手でトランプへの説得工作を強めていくだろう。現行のままTPP承認でもTPP離脱でもなく、再交渉で「米国第一」の成果を獲得するといった形が、TPPの落としどころかもしれない。トランプを羽交い絞めにすることが果たして可能か、新政権のカギを握るペンス次期副大統領のほか、議会を牛耳るマコネル上院院内総務、ライアン下院議長など共和党主流派の今後の対応が注目されている。トランプ新政権が議会との対立を避けるため、共和党主流派とうまくやろうと考えれば、大いに脈はあるだろう。

6. 日本の通商戦略は正念場:戦略は練り直し

日本はこれまで公式には、クリントンの当選を前提に、TPPの再交渉には応じられないという姿勢をとってきた。だが、トランプ新政権の誕生で、事態は急変したのである。日本のTPP戦略の練り直しが必要である。

TPPが頓挫すれば、アベノミクスにとって大きな痛手だ。安倍政権の成長戦略にとって、TPPはアジア太平洋の成長力を取り込む重要な柱と位置づけられている。米新政権がTPPから離脱すれば、日本は梯子を外される結果となってしまう。日本のこれまでのFTA戦略も、TPPをテコにRCEP、日中韓FTA、日EUのFTAを進めてきた。TPPという支柱を失えば、その痛手は大きい。米国抜きのTPP案も浮上しているが(注3)、米国が不参加ではTPPの価値がない。

米国がTPPを離脱すれば、TPPをテコとしたアジア太平洋のFTA交渉が深刻な「負の連鎖」に陥ってしまう可能性も高い。RCEP交渉は、高い水準の自由化を目指す日本、豪州などと、急速な自由化に慎重な姿勢を見せる中国とインドなどが激しく対立、16年中の大筋合意も先送りとなった。TPPなきRCEPは日本がしっかりしないと腑抜けとなりそうだ。日中韓FTAについても同様、FTAの質をめぐり日中の溝が埋まっていない。TPPの足踏みで余裕を取り戻した中国が、中韓FTA並みの緩い枠組みでまとめたいとする姿勢を崩していない。

これまでのような受動的な「様子見」の姿勢は、今や日本には許されない。アジア太平洋の新通商秩序の基盤と位置付けられるTPPの生き残りに向けて、日本が主導的な役割を果たすことができるか、21世紀型貿易の「ルール・メーカー」を目指す日本の新たな通商戦略にとってまさに正念場といえよう。

TPPの戦略的な重要性をトランプ新政権に再認識させるために、APECリマ宣言に基づき、日本は率先してTPP協定案を承認したことは大いに評価すべきである。現行のTPPは大事に「冷凍保存」しておけばよい。

日本は米国のTPP離脱を思い止まらせるよう、落としどころを睨みながら、最大限の外交努力をすべきである。今が踏ん張りどころである。TPPを支持する米国の産業界や政界が、それを「渡りに船」と考えて、トランプ新政権を突き動かせば、NAFTA(北米自由貿易協定)と同じように、別途、補完協定を締結するための再交渉の道を開くことになるかもしれない。「そんなシナリオが準備されている」と冗談を聞かされると、満更嘘ではないと期待したくなる。

今年11月上旬、衆議院でTPP法案が可決されたが、付帯決議がついている。「国益を損なうような協定の再交渉には応じられない」という内容だ(下線に注意)。TPP交渉参加の際にも似たような言い回しがあった。深読みすれば、安倍政権は事実上、再交渉の余地を認める方向に舵を切っていると見てよかろう。もはやセカンドベストの選択しかない。

1) 米国を代表する108の大企業、業界団体が名を連ねる「TPPのための米国企業連合」(U.S. Business Coalition for TPP)は、2010年9月にTPPに関して15原則からなる要望書を発表している。

2) 英国のオックスフォード英語辞典は、「post-truth」を「今年の言葉」に選んだ。

3) ペルーのクチンスキー大統領は、今年のAPEC会合の直前、米国抜きでも中国やロシアなどが参加する新たな枠組みのTPP実現が可能だとの認識を示している。

参考文献

APEC, Lima Declaration on FTAAP, November 20, 2016.

馬田啓一「米国はTPP離脱で墓穴を掘るつもりか」国際貿易投資研究所『世界経済評論IMPACT』No.754、2016年11月21日。

馬田啓一・浦田秀次郎・木村福成編著『TPPの期待と課題:アジア太平洋の新通商秩序』文眞堂、2016年。

滝井光夫・高橋俊樹著「対談:トランプ新政権をめぐる米国経済の展望」国際貿易投資研究所『フラッシュ』2016年11月25日。

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