一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2017/08/09 No.344第3次投資ブーム下での日本企業のベトナム進出~ITIアジアサプライチェーン研究会報告(1)~

川田敦相
日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部 上席主任調査研究員

日本企業は投資先としてベトナムに対し極めて高い関心を有している。ITIアジアサプライチェーン研究会(公益財団法人JKA補助事業)のメンバー、川田敦相・日本貿易振興機構海外調査部上席主任調査研究員から、ベトナムにおける最近の日系企業進出について伺った。(聞き手はITI事務局長 大木博巳)

‐日系企業のベトナム進出は、2012年から“第3次投資ブーム”が続いていると指摘しています。今回のブームの特徴は?

米国による対越経済制裁の解除、米越国交正常化を踏まえた90年代半ば頃から97年7月のアジア通貨・経済危機発生までの“第1次投資ブーム”では南部ホーチミンを中心に労働集約型製造業分野での投資案件が増加。また、2000年代初頭から2008年9月のリーマンショック発生頃までの“第2次投資ブーム”では、北部ハノイにもキャノンなど日本の大型製造業投資が増加し、2000年代半ば以降は中部ダナンへの製造業投資案件も増加した。

2012年以降の、自身“第3次”と位置付ける今回の投資ブームは、(1)既にベトナムに進出している数多く(2,000社超)の日系企業を顧客と見据えた企業進出(コンサル業、製造業関連サービス等)がみられたこと、(2)認可件数では、非製造業(サービス業など)を中心に、中堅・中小規模の案件が太宗を占めていること、(3)製造業投資ではダイキン工業のエアコン工場建設など内需指向型の投資案件も見られるようになっており、その増加が期待されること、(4)12、13年にブリヂストンや京セラなどハイフォンで大型製造業投資案件がみられたこと、(5)17年に三井石油開発や丸紅による大型エネルギー関連投資がみられたこと等が特徴として挙げられるものと思います。

高速道路の開通で移動時間が短縮

‐ハノイ、ホーチミンの大都市圏ばかりでなく地方進出も活発とのことですが、地方ではどこに人気があるのでしょうか?

ベトナムでは高速道路など国内輸送網の整備が急速に進展し、ハノイ、ホーチミンといった大都市圏のみならず、ハイフォン、ダナンや、高速道路沿線省が進出先として注目されています。ハノイ・ニンビン高速道路の開通を機としたハナム省への日本企業の進出案件の増加、また、“陸(高速道路)・海(ラックフェン港)・空(カットビ空港の国際空港化)”のインフラ整備の進むハイフォンも人気を高めています。特に、2015年12月のハノイ・ハイフォン高速道路の開通で、1時間強へ大幅に移動時間が短縮されたことから、ハイフォン進出日系企業関係者の中にはハノイから通勤される日本人の方も散見されるようになりました。加えて、ハノイ・ラオカイ高速道路が2014年9月に完成したことで、ラオカイ省の手前のイエンバイ省に初の日系企業が進出するなど、従来、外資系企業の進出を見込むことができなかった地方遠隔省も進出候補のひとつとなりました。勿論、ハノイやホーチミンといった大都市圏から1時間以内の近郊省への進出は依然として人気がありますが、ヴィンフック省などでは、従来に比べ人出不足や雇用難を指摘する声も日系企業から聞こえるようになっています。

年々消費が活発化

‐小売業の進出が増えている。ユニクロが進出との報道も見られる。消費が伸びているのでしょうか?

ベトナムの一人当たりのGDPは2016年で約2,200ドルに留まりますが、ホーチミンでは約5,000ドル、ハノイでは約3,500ドルとなっており、とりわけ都心部での消費の伸びが顕著です。ベトナムでは共働き世帯も多く、年々消費が活発化している印象です。自身駐在したハノイ市内でも新たな飲食店がどんどんオープンしています。結婚式を高級ホテルで挙げるカップルの増加、また、子供に水泳を習わせたり、ベトナム人のゴルフ人口も確実に増加しています。

日系小売業では、イオンモールが2014年1月にホーチミン初出店後、ビンズオン省やハノイにも出店、高島屋も2016年7月にホーチミンに出店しています。コンビニでも、先行するファミリーマート、ミニストップに次いで、2017年6月にセブン・イレブンがホーチミンに1号店をオープンさせ、店舗数の増加が見込まれています。

‐日系中小企業のベトナム進出が増えている背景は?

そしてリスクは?ベトナムで日系中小企業が増加している背景には、幾つかの理由があるものと思います。第一は、日本国内の人手不足やマーケット縮小等からベトナムへ進出したケース、第二は中小企業の進出先としてのベトナムの魅力の大きさ(人件費の安さ、ベトナムの親日度の高さ、ベトナムにおける納品先顧客企業の存在など)、第三に日本側の中小企業の海外進出支援や、ベトナム受入れ側の積極的な中小企業誘致などがあげられるものと思います。一方、リスクとしては、“人件費の高騰”や、“頻繁に変わる法制度”などが挙げられるものと思います。特に、言語上の問題から、日本語の堪能なベトナム人スタッフに頼る中小企業も多いものと思われ、信頼のできるベトナム人スタッフの確保は事業展開上、不可欠と思われます。‐ホアラックハイテクパークに日本電産が進出するとのことですが、低調であったホアラックに転機が訪れているのでしょうか?ホアラックハイテクパークは元々、グエン・タン・ズン前首相が2006年に、南北高速鉄道、南北高速道路とともに、日本に協力要請した3案件のひとつでした。しかしながら、(1)ハノイ市街から見て、積出港となるハイフォンの反対方面(ハノイ市街から西へ34キロ)に立地すること、(2)科学技術省所管の管理委員会がこれまで企業誘致に必ずしも積極的とは言えなかったことなどから、日系企業のホアラックハイテクパークへの進出案件は低調に推移していたと思います。本年6月に日本電産が同ハイテクパークで省エネ高性能モータやロボット等高性能機器用モータの生産拠点設置を公表しましたが、ホアラックなどハイテクパークへのハイテク分野での投資案件の増加が期待されています。

‐“チャイナ+1”、“タイ+1”の動きは?

“チャイナ+1”と言われて久しいですが、今日でも、中国の人件費などコスト上昇等への対応策として、“チャイナ+1”でのベトナム進出案件が見られます。とりわけ、中国と国境接するベトナム北部において、“チャイナ+1”案件が見られます。

一方、“タイ+1”の動きとしては、地理的優位性からベトナム南部での案件がみられます。投資誘致活動に取り組むベトナム計画投資省外国投資庁は、2016年にバンコクで進出日系企業を対象としたベトナム投資セミナーを開催するなどの動きもみられました。

地域統括本部(RHQ)誘致を

‐アジアサプライチェーンにおけるベトナムの位置づけは?

ベトナムは今日、必ずしも多くの企業がアジアのサプライチェーンに組み込まれている訳ではありません。日系製造業者の中にはハノイに東南アジアでの部品調達機能を有する企業も散見されるものの、多くはメコンワイド、カンボジア所管兼務程度に留まっています。この背景には、ベトナム国内での物流関連施設の未整備や、近隣諸国への移動面での比較劣位が見られていました。しかしながら、今日、日系企業によるロジスティックセンターや冷凍冷蔵倉庫の建設・運営などの動きも見られるようになり、ベトナムに新たな拠点機能を設ける段階にきているようにも思われます。シンガポールやマレーシア、タイで採られた地域統括本部(RHQ)誘致に向けたインセンティブをベトナム政府側が整えることは時宜に叶った政策になり得るものと思います。

‐TPP11に対するベトナム政府の対応は?

フック首相は、TPP11に対し前向きに対応する旨公約しています。ベトナムにとって最大の輸出先国である米国がTPPから離脱したことは確かに望ましくないものと認識していると思われます。しかしながら、TPP11の推進を通じて、豪州など新たな商圏の確保やTPP加盟国としてのベトナムへの域内投資の拡大などが期待できます。2017年、ベトナムはAPEC主催国でもあり、TPP11、更にはその先にあるアジア太平洋大での自由貿易圏の創設に向け、前向きな対応が見込まれるところです。

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