一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2018/01/18 No.361韓国企業の米国進出の現状~ITI米国研究会報告(3)~

百本和弘
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部 主査

1.対米直接投資の特徴

韓国にとって米国は最大の直接投資先で、2017年9月末の対米直接投資(実行ベース、以下同様)の累計額は対世界直接投資累計額の23.6%に当たる911億ドルとなっている。業種(大分類)別にシェアを取ると、卸売・小売23.3%、製造業18.6%、金融・保険13.6%、不動産・賃貸13.5%、鉱業11.4%の順となっている。韓国の対世界直接投資累計額では製造業が32.2%を占めているのに対し、対米直接投資累計額では製造業の比率が低いのが特徴の一つである。このことは、韓国企業にとって米国は生産拠点の位置づけが相対的に低いことを示唆しているといえよう。なお、製造業の内訳(中分類)をみると、エレクトロニクス(統計上の名称は「電子部品、コンピュータ、映像、音響、および通信装置製造業」)が最も多い。

次に、対米直接投資額について目的別に構成比を取ると、一貫して多いのが「現地市場進出」で、常に4割前後を占めている(図2)。それ以外についてみると、2000年代半ばまでは「輸出促進」が比較的多かったが、2008~14年は「資源開発」の割合も高まり、特に国際的な資源価格高騰を受け、2011年に急上昇した。しかし、2015年には資源価格下落を受け「資源開発」の割合は1%未満に低下し、2016年以降は「先進技術導入」の割合が急上昇している。このように、韓国企業の米国進出の目的を対米直接投資額ベースでみると、「現地市場進出」を軸としつつも、それ以外の主要な目的は「輸出促進」→「資源開発」→「先進技術導入」といったように、局面ごとに変化している。

他方、トランプ政権の保護主義政策に対応した投資は同図から見る限りでは限定的といえよう。このことは、後述する対米直接投資事例をみても同様である。サムスン電子やLG電子の米国での洗濯機生産拠点建設のように、すでに通商問題の渦中にある場合には対米直接投資を進めているものの、そうした動きは全体的には未だ大きく顕在化していることはないといえそうである。

2.最近の主要な対米直接投資事例

対外直接投資統計を発表している企画財政部や韓国輸出入銀行では、個別の投資案件について投資企業名を一切公表していない。そこで、韓国の各種メディアや各社発表をベースに、2016~17年の対米直接投資関連の主要事例について、製造業(グリーンフィールド投資、M&A)、非製造業に分けてみることとする(付表)。

製造業のグリーンフィールド投資 - 市場獲得目的が目立つ

製造業におけるグリーンフィールド投資では、米国市場の獲得を狙った事例が幅広い分野でみられた。このうち、大型投資の事例としては、ハンコックタイヤのテネシー州でのタイヤ工場建設、クムホタイヤのジョージア州のタイヤ工場建設、サムスン電子のテキサス州オースチンの半導体工場の生産能力増強などが挙げられる。例えば、ハンコックタイヤは8億ドルを投じてテネシー州にタイヤ工場を建設、2017年10月に竣工式を行った。生産能力は当初、年産550万本で、2020年までに1,100万本に拡大する予定である。同社は「2020年にグローバルトップ5入り」を目標として掲げている。それまで韓国、中国、インドネシア、ハンガリーに工場を持っていたが、米国には工場がなかった。世界の自動車メーカーの生産拠点が集積する米国南部地域に工場を建設し、日系を含めた自動車メーカー各社へ拡販し、目標達成を目指す考えである。

なお、トランプ政権の米国製造業振興要請に呼応した対米投資案件に関しては、LG電子が2017年2月に発表したテネシー州の洗濯機工場建設(2億5,000万ドル)が初の大型案件であった。ついで、前述のとおり2017年6月にサムスン電子がサウスカロナイナ州に洗濯機などの家電工場を建設することを発表した(3億8,000万ドル)。両社とも米国のセーフガードの動きに対応し、完工時期を当初の予定より早めたが、このうち、サムスン電子は一足早く2018年1月に工場を完工した。韓国経済新聞(2018年1月15日、電子版)は「サムスン電子は2020年までに生産能力を年間100万台に拡大する計画と発表した。これはサムスン電子が北米市場に輸出する洗濯機の60~70%水準」と紹介している。

ただし、前述のように、現在までのところは、このような動きが幅広く拡大しているようではない模様である。

3.製造業のM&A - 技術獲得目的などを狙う

製造業におけるM&Aとしては、まず、米国企業が保有する技術を獲得する狙いのものが目に付いた。その象徴が2016年11月にサムスン電子が発表したハーマンインターナショナル買収で、投資額(80億ドル強)は韓国企業の海外企業M&A案件として過去最高額であった。同社は、将来のコア事業の競争力強化のために新技術を有する海外企業の買収を矢継ぎ早に進めてきたが、その中心が米国企業の買収であった。過去、IoT(インターネット・オブ・シングス)プラットフォーム開発 のスマートシングス買収(2014年8月)、モバイル決裁のループペイ買収(2015年2月)などがあったが、その流れが続いたわけである。ただし、サムスン・グループの事実上のトップである李在鎔サムスン電子副会長が2017年2月に逮捕されて以降、大型M&Aはストップしている。

投資規模は小さいものの、バイオ分野でも技術力獲得を狙った米国企業への出資が散見された。例えば、製薬メーカーの柳韓洋行は2016年4月、米国の合弁会社のパートナーでもある抗体医薬品開発のソレントに1,000万ドルの出資を行っている。

米国市場における流通網確保のために米国企業を買収した事例も散見された。例えば、サムスン電子は2016年8月、家電メーカーのデイコーの買収契約締結を発表した。これは、米国における新築住宅ビルトイン家電事業の強化を狙ったものである。同社は「(デイコーは)北米の住宅・不動産関連市場で高級家電ブランドとしての名声と競争力が認められている」「ラクジュアリー・パッケージのラインアップの拡大と専門流通網の確保などで事業基盤を強化する計画」(2016年8月11日)と発表している。

4.非製造業 - 投資収益獲得目的が目立つ

非製造業でもさまざまな分野・目的の直接投資事例がみられるが、まず目につくのは、未来アセット資産運用や現代インベストメント運用といった資産運用会社が投資収益獲得目的で米国の不動産・ホテルなどへ積極的に投資していることである。例えば、未来アセット資産運用は2016年5~6月にハワイのホテル取得やアマゾン本社社屋の一部取得が報じられるなど、米国の不動産・ホテルに積極的に投資している。

ついで、米国の消費市場を狙った進出事例もみられた。例えば、ヘマロー・フードサービスは2018年1月、ハンバーガーチェーン「マムズタッチ」米国1号店をカリフォルニア州に開店した。同社は海外事業拡大に注力しており、米国は台湾、ベトナムに次ぐ3番目の海外進出先になる。ソースを米国風にアレンジするなど、現地化に努め、当初の直営店から、将来はフランチャイズ展開を計画している。

さらに、米国市場での販売ネットワークを確保するためのM&Aもみられた。例えば、斗山重工業は2017年7月、米国法人を通じ、ガスタービンサービス会社のACTインディペンデントターボサービスを買収した。ACTの専門人材、受注実績、ノウハウなどを確保し、米国のガスタービンサービス市場に参入するのが狙いであった。

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