一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2019/10/21 No.436武漢スピリットとチェンナイ・コネクト~中印両国トップ非公式会談への期待~

山崎恭平
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

10月11日と12日の二日間、南インドのタミール・ナドゥ州都チェンナイ(旧マドラス市)で中国の習近平国家主席とインドのナレンドラ・モディ首相の非公式会談が行われた。昨年4月湖北省武漢市で初めて行われた中印両国のトップによる非公式会談に次ぐもので、中印両軍がヒマラヤ山脈ドクラム高地で73日間対峙した危機を回避した「武漢スピリット」(Wuhan Spirit )をさらに継続する「チェンナイ・コネクト」(Chennai Connect)につなげたとして、インドでは概ね好意的に受け止められている。

非公式トップ会談で公式の声明や覚書はないが、インド政治の中枢を離れたチェンナイにはかつて中国の絹織物がヨーロッパに運ばれた海上シルクロードの港があり、現在は自動車産業やIT産業が盛んである。そこで、周辺の世界遺産のヒンドウ寺院散策を交えて両国間だけでなく地域間や世界的な懸案についてかなり率直な意見交換が行われたようだ。PTI通信やTimes of India 等のインドのマスコミは、チェンナイ会談の模様を大きく報道しており、関心の高さがうかがわれた。

今回の非公式会談の主テーマは、インド、パキスタン、中国の3か国が分割統治するカシミール問題かと見られていた。分割統治で緊張が続いているだけでなく、中国の進めるBRI(一帯一路)戦略ではインドの宿敵ともいえるパキスタンにCPEC(中国パキスタン経済回廊)建設を支援している。インドはCPECがカシミール地方でインドの領土を侵害していると強硬に反対し、この2月にはパキスタンと軍事衝突が起こった。4~5月の総選挙で圧勝し2期目に入ったモディ政権は、8月に憲法改正でイスラム過激派の越境テロの温床になっているとインド領ジャム・カシミール州を連邦直轄地にした。これに対してパキスタンと中国が反発を繰り返していた経緯から、非公式首脳会談の行方が関心を呼んでいた。

インド側のマスコミ報道によると、非公式会談ではカシミール問題は主要議題にはならなかった模様である(注1)。ジャム・カシミール州の連邦直轄地化はモディBJP(インド人民党)政権のマニフェストに挙げられていたし、連邦議会の審議を経て決定をしたインドの内政問題であるとするインドの主張が中国側の反応や国連での議論に影響していると観察される。非公式首脳会談でまったく議論されなかったとは考えられないが、習主席の関心は米国との経済摩擦が続き香港騒動等縣案を抱える中で、インドとの関係改善の契機を維持し改善に向けて理解を深める話し合いであったと思われる。非公式会談直前にパキスタンのイムラム・ハーン大統領の陳情を受けたようであるが、従来になくインド側の反応を忖度している姿勢がうかがわれた。

BRI戦略への参加や印中貿易不均衡是正

中国の国家戦略であるBRIについては、インドの参加が改めて要請されたと伝えられる。インドも、インフラ建設が地域のコネクティビリティを高め開発効果が大きいことは認めている。そのため、AIIB(アジア・インフラ投資銀行)の第2回総会をインドのムンバイで開催してきたし、世銀やADB(アジア開発銀行)との協調もあってAIIB融資を受け入れている。しかし、CPECは容認できず、インド近隣のスリランカやモリディブのBRI案件に見る債務問題や不透明さからBRI戦略への参加は拒んでおり、今年も北京会議には出席しなかった。代わりに、インドは日米豪との4か国で共有する「国際ルールに則り自由でオ―プンなアジア太平洋(FOIP)」構想に中国の関与・参加(inclusive)を視野に置く「FOIIP」構想を主張したようである。

会談では、BRI戦略に関連し、古代の海上輸送ルートの復活としてチェンナイと福建省の港湾ルートの話題が出たようである。モディ首相は、9月初めソ連のウラジオストックで開催された第5回極東方経済フォーラムに参加し、そこでプーチン大統領とFOIIP構想に沿ったインドのチェンナイとソ連のウラジオㇲトックを結ぶ海上輸送ルートに合意している。チェンナイと福建省間では、姉妹都市案や海上輸送ルート建設について両国の研究に委ねられるとされた。

このほかテロ対策や国際情勢の多様な問題が話し合われたが、インド側にとっては懸案の対中貿易の大幅赤字問題の是正が提示され、より均衡する相互貿易に向けて検討する場が設けられるようになり(注2)、好意的に評価されている。すなわち、インド側は財務大臣、中国側が副首相をトップとする貿易と経済のハイレベル対話メカニズムがつくられることになった。ここではインド側の関心が深い医薬品や食料輸出、IT分野の対中投資も議論に含まれると伝えられ、歓迎されている。また、両首脳は保護貿易主義や国際協調よりも一国主義に傾斜しがちな最近の国際情勢に懸念を表明し、地球温暖化問題やSDGsの重要性を強調している。

インドの国際収支は、商品貿易が大幅な赤字で、IT関連等サービス貿易の黒字や海外からの本国送金を上回って経常収支の赤字が続いている。商品貿易では米国と中国が2大相手国で、中国との往復貿易額は今や米国と首位を争うようになっている。別表の昨2018/2019 年度実績では、中国からの輸入額は輸出額の4倍強で大幅な赤字、商品貿易赤字額の約3割を占めて最大である。輸入ではスマホ等の電気・電子機器だけでなく雑貨類の輸入も増え、緊急輸入制限の動きや中国への是正要求が出ていた。“メイク・イン・インディア”政策での製造業強化策もあるが、対中貿易の不均衡是正が検討されることになり期待されている。

中印両大国のトップ非公式会談は、来年中国で開催する習主席の招待をモディ首相が受け、継続されることになった(注3)。両首脳がにこやかに対談している写真からは両国の対立や緊張関係が緩和される希望的観測もあるが、現実は厳しい局面を否定できない。習中国国家主席は帰路ネパールを訪問し、昨年オリ連立政権が誕生した際に噂をされていたチベットから首都カトマンドウへの鉄道延伸計画の検討が約された。インドは近隣諸国への中国の進出には安保政策の観点から警戒し、この鉄道延伸計画を懸念していた。インド側も鉄道建設計画が伝えられ、中国とインドの政治的なせめぎ合いは続いている。(10月20日記)

(注1)Xi doesn’t raise Kashmir with Modi as they seek to reset ties Oct.13 2019 Times of India

(注2)India , China to establish high-level economic & trade dialogue mechanism Oct.13 2019 Times of India

(注3)2nd India-China Informal Summit インド外務省プレス・リリースOct.12 2019

(別表)「インドの商品貿易10大相手国(2018/19年度)」

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